防爆(防爆措置)は、一瞬の火花や熱が引火しやすい環境での爆発を防ぐための技術と対策です。特定の業界では、作業環境において可燃性ガスや粉塵が日常的に生成されるため、これらの対策は非常に重要です。本コラムでは、防爆が必要な業界や防爆基準について詳しくご紹介します。
防爆が必要な業界
防爆が必要とされる業界は、可燃性ガスや粉塵が日常的に扱われる環境です。これらの業界では、作業者の安全を確保し、事故を防ぐために、防爆対策が欠かせません。以下に、具体的な業界例を挙げていきます。
化学工業
化学工業では、多くの反応が可燃性ガスや液体を生成します。
一例として、石油精製や有機化学品の製造が挙げられます。これらの施設では、引火性ガスが漏洩した場合に爆発が発生するリスクが高いため、防爆措置が欠かせません。
農業
農業分野でも、防爆措置が必要とされています。
例えば、飼料や穀物の加工工場は、粉塵が発生しやすい環境です。粉塵は小さな火花で簡単に爆発し、甚大な被害をもたらす可能性があります。
エネルギー産業
特に石油化学プラントやガスプラント、製油所などのエネルギー産業でも防爆対策は不可欠です。
天然ガスや石油製品は非常に引火しやすく、設備内外での爆発事故を防ぐために、厳格な安全基準が求められます。
製薬業界
材料の調合や処方薬の製造過程で、可燃性物質を取り扱うことが多い製薬業界でも防爆対策が必要です。
特に粉末薬品は、微小な粉塵が原因で爆発するリスクがあるため、この点での安全管理が重要となっています。
主要な防爆基準
防爆基準は、各国や地域ごとに異なる場合がありますが、世界的に認められている主な基準には以下のようなものがあります。
IECEx規格
国際電気標準会議(IEC)が策定した防爆規格となり、国際的に通用する安全基準を確立させている。機器の設計、製造、試験、認証に関する標準を定め、品質と安全性の保障基準を共通化させている。
ATEX指令
欧州連合(EU)の防爆指令として制定。ATEX規制は「ATEX 95(機器指令)」と「ATEX 137(労働者保護指令)」の2つの指令がある。
NEC/CEC規格
アメリカ(NEC)およびカナダ(CEC)の防爆規程は、これらの地域で電気配線・電気設備設置を安全に使用するための規制。
防爆対応の重要性
爆発事故は人的被害、施設破壊、生産の中断など多大な経済的損失を引き起こします。防爆対策を怠ることは企業に大きなリスクをもたらします。
爆発事故による作業員の負傷や死亡を避けるために、安全な作業環境の確立と教育が必要です。
防爆対策を実施することで、事故を未然に防ぎ、修理費用や生産停止による損失を抑えることができます。
防爆対応は法的に義務付けられており、違反すれば罰金や法的措置の対象となります。
防爆構造について
Zoneの定義
ガス防爆Zone | 粉塵防爆Zone | 定義 |
---|---|---|
Zone0 | Zone20 | 爆発性雰囲気が連続的に、長時間頻繁に存在する区域 |
Zone1 | Zone21 | 爆発性雰囲気が通常運転中でも、ときどき生成される区域 |
Zone2 | Zone22 | 爆発性雰囲気が通常運転中は生成されず、生成されても短時間になる区域 |
爆発性雰囲気
種類 | グループ | 説明 |
---|---|---|
坑気ガス | グループI | 炭坑で発生するメタンガスを主体としたガス |
ガス・蒸気 | グループII | プロパンガスなどの可燃性気体やガソリン等の液体/個体が気化/昇華した状態 メタン、アンモニア、エチレン、水素 等 |
粉塵 | グループIII | 可燃性の粉体・浮遊物が雲の状態か堆積状態 鉄粉、アルミ粉、粉石けん、小麦粉、米粉、粉砂糖 等 |
本質安全防爆
防爆の種類 | 記号 | 内容 |
---|---|---|
耐圧 | da, db, dc | 爆発性雰囲気ガスが機器の中に侵入したときに、爆発する可能性がある。 爆発しても外に出ないように保護されている。 |
本質安全 | ia, ib, ic | 爆発性雰囲気ガスが浸入したときに、内部に点火源となるような火花や高温部が存在しない。 |
内圧 | pxb, pyb, pzc | 機器の中に爆発性雰囲気の侵入を防ぐ 保護ガスを注入し、爆発しないよう対策をする。 |
安全増 | eb, ec | 過度の温度上昇やアーク・火花の発生に対して、対策を高めた防爆機器 |
粉塵 | ta, tb, tc | 粉塵が中に入らないような保護構造をとっている ※ガスには使えない |
ガス防爆
爆発性ガス蒸気の分類
種類 | 分類 | 説明 |
---|---|---|
危険特性 | IIA | メタン、プロパン、アンモニア 等 点火に必要な最小点火電流は0.8の化学物質 = 比較的火がつきにくい |
IIB | エチレン、イソブレン 等 点火に必要な最小点火電流は0.45以上0.8以下 |
|
IIC | 水素、アセチレン 等 点火に必要な最小点火電流は0.45未満の化学物質 = 火がつきやすい |
温度等級
種類 | 種類 | 説明 |
---|---|---|
温度等級 | T1(G1) | 450℃以上で発火するガス蒸気(水素、エタン 等) |
T2(G2) | 300℃以上で発火するガス蒸気(プロパン、アセチレン等) | |
T3(G3) | 200℃以上で発火するガス蒸気(ヘキサン、イソプレン等) | |
T4(G4) | 135℃以上で発火するガス蒸気(アセトアルデヒド 等) | |
T5(G5) | 100℃以上で発火するガス蒸気 | T6 | 85℃以上で発火するガス蒸気(亜硝酸エチル 等) |
爆発性ガスのグループと温度等級
– | T1 | T2 | T3 | T4 | T5 | T6 |
---|---|---|---|---|---|---|
IIA | アンモニア エタン トルエン メタン |
プロパン ブタノール ブタン アセチルアセトン 塩化ビニル |
ヘキサン ガソリン ケロシン ペンタン シクロヘキサン |
アセトアルデヒド トリメチルアミン |
– | 亜硝酸エチル |
IIB | 一酸化炭素 シアン化水素 アクリロニトリル |
アクリル酸エチル エチレン エタノール |
ジメチルエーテル イソプレン |
エチルエーテル | – | – |
IIC | 水素 | アセチレン | – | – | – | 二硫化炭素 |
危険場所
種類 | Zone | 機器保護レベル | 保護レベルの説明 |
---|---|---|---|
危険場所 | Zone0 | Ga | 特別危険箇所に設置可能 想定される故障や稀な故障が生じても発火源にならない 高い保護レベルで保護されている構造 |
Zone1 | Gb | 第一類危険箇所に設置可能 想定される故障が発生しても発火源にならない |
Zone2 | Gc | 第二類危険箇所に設置可能 正常運転中および通常想定されない発火源にならない保護構造 |
粉塵防爆
爆発性粉塵の分類
種類 | 分類 | 説明 |
---|---|---|
危険特性 | IIIA | 可燃性浮遊物(粒子の大きさが500µm以上) レーヨン、麻、綿 等 |
IIIB | 非導電性粉塵(穀物粉、粉末合成樹脂) フェノール樹脂、PTE樹脂、ポリエチレン、でんぷん 等 |
|
IIIC | 導電性粉塵(金属粉、石灰粉) 亜鉛、マグネシウム、鉄 等、火がつきやすい粉塵 |
危険区分と粉塵の点火温度
危険区分 | 粉塵の種類 | 点火温度 (℃) |
---|---|---|
IIIB | フェノール樹脂 | 520 |
PTE樹脂 | 480 | |
ポリエチレン | 410 | |
でんぷん | 410 | |
小麦 | 410 | |
硬化ゴム | 360 | |
粉砂糖 | 360 |
危険区分 | 粉塵の種類 | 点火温度 (℃) |
---|---|---|
IIIC | ガス炭 | 580 |
亜鉛 | 530 | |
マグネシウム | 470 | |
鉄 | 430 | |
チタン | 375 |
※IIIAは工場防爆設備ガイドに特定の化合物の指定なし
危険場所
種類 | Zone | 機器保護レベル | 保護レベルの説明 |
---|---|---|---|
危険場所 | Zone20 | Da | 特別危険箇所に設置可能 想定される故障や稀な故障が生じても発火源にならない 高い保護レベルで保護されている構造 |
Zone21 | Db | 第一類危険箇所に設置可能 想定される故障が発生しても発火源にならない |
Zone22 | Dc | 第二類危険箇所に設置可能 正常運転中および通常想定されない発火源にならない保護構造 |
防爆対応製品のご紹介【Zone1・Zone2・Zone21・Zone22対応】
RealWearは、製造業・建設業向けのスマートグラスであり、防爆仕様のモデルも提供されています。このデバイスは音声操作によるデータの閲覧や入力を行えるため、両手を使った作業時や危険な環境でも利用できます。リアルタイムでの情報共有や遠隔支援が可能なので、作業の効率化を図れます。また、高い場所からの落下にも耐える耐久性を備えており、そして騒音環境でも対応できるようノイズキャンセリングが設計されているため、常に安定したパフォーマンスを発揮します。
防爆認証一覧
国内防爆情報:
- 構造: 本質安全防爆 (ib)
- 合格番号: CML 18JPN2258X
- 認証規格: MIL-STD-810H
ガス防爆:
Ex ib ⅡC T4 Gb
- 本質安全防爆
- 最大温度: 135℃
- 高危険区域 (Zone 1)
- ガスグループ: IIC(最も危険)
粉塵防爆:
Ex ib ⅢC T135℃ Db IP6X
- 本質安全防爆
- 最大温度: 135℃
- 粉塵区域 (Zone 21)
- 防塵性能: IP6X (完全防塵)
- 粉塵グループ: IIIC(最も危険)
LiLz Gaugeは、IoTカメラでアナログメーターを自動で読み取り、AIによってデジタル数値データとして可視化できるサービスです。作業現場における温度、湿度、圧力、水位、ランプ点滅など、計器の種類問わず多様なデータの読み取りが可能です。主に製造現場の機械や設備の巡回点検業務の効率化を図る目的で使用されています。
防爆認証一覧
ガス防爆:
Ex ic IIC T6 Gc
- 本質安全防爆
- 最大温度: 85℃
- 中危険区域 (Zone 2)
- ガスグループ: IIC(最も危険)
粉塵防爆:
Ex ic IIIC T85℃ Dc
- 本質安全防爆
- 最大温度: 85℃
- 粉塵区域 (Zone 22)
- 粉塵グループ: IIIC(最も危険)
まとめ
防爆措置は、特定の業界において欠かせない重要な対策です。化学工業や農業、エネルギー産業、製薬業界など、多くの分野で導入が進められています。また、国際的な防爆基準に基づく適切な対応が求められます。作業者の安全を確保するため、そして企業の損害を最小限に抑えるために、これらの基準に従った防爆対策の徹底が重要です。
防爆には多大な準備とコストがかかりますが、それに見合う価値が十分にあります。これからも各業界が防爆技術の進化とともに安全管理を強化していくことは、企業の信頼性向上や持続可能な発展に直結します。さらに、社会全体の安全性向上にも大きく貢献するでしょう。
また、防爆対応製品の選定に関するポイントをまとめたコラムも併せてご覧いただき、安全対策の参考にしていただければ幸いです。