製造業やインフラ分野では、人手不足を背景に設備保全・保全業務の在り方が見直されつつあります。2030年には技術系人材が約20%不足すると予測されており、少子高齢化や熟練技術者の大量退職により、現場ではすでに慢性的な人手不足が顕在化しています。こうした中、巡回点検や記録、確認といった保全業務をこれまで通り人手に頼り続けることに限界を感じている企業も少なくありません。本コラムでは、設備保全・保全業務の中でデジタルに置き換えられる領域と、人手不足時代に求められる点検業務の考え方を解説します。
設備保全の現場では、どんな業務が発生しているのか

多くの現場では、点検計画や基準に基づき、巡回・点検・記録を行い、確認・判断を経て改善につなげるという流れで設備保全業務が運用されています。一方で、このプロセスを分解してみると、人が関与しなければ回らない作業が想像以上に多いことが分かります。
結果として、PDCAの「Do」に工数が集中し、「Check」「Action」に十分な時間を確保できていない現場も少なくありません。
設備保全業務はどこまで自動化できるのか
自動化しやすい領域・人が担うべき領域の整理

設備保全業務は、「自動化しやすい領域」と「人が担うべき領域」に整理できます。定型的で基準が明確な巡回・点検・記録といった業務は、デジタルに置き換えやすい一方、異常の最終判断や改善策の検討などは人が担うべき業務です。
設備保全の自動化において重要なのは、すべてを自動化することではありません。判断の前段階にあたる業務をデジタルに任せることで、人は本来注力すべき確認・判断・改善に時間を使えるようになります。この役割分担を明確にすることが、現実的で持続可能な設備保全体制につながります。
なぜ「全自動化」は現実的ではないのか

経営リスクを伴う「最終判断」の責任
AIは「過去のデータ」に基づき、故障の確率を算出することは得意です。しかし、「今、ラインを止める決断」を下すことはできません。
例えば、生産納品が迫っている中で異常アラートが出た際、無理をしてでも稼働を続けるか、数億円の損失を覚悟して緊急停止させるか。この判断には、単なる設備状態だけでなく、顧客との信頼関係や供給責任といった多角的なリスク評価がもとめられます。最終的な「責任」を負うことができないAIに、事業継続に関わる最終判断を委ねることは、ガバナンスの観点からも極めて困難です。
デジタル化を拒む「五感」と「暗黙知」
ベテラン技術者が現場で発揮する「いつもと違う」という直感は、におい、音の響き、風の流れ、さらには床から伝わる微細な振動といった、複雑な情報の統合処理です。
すべてをセンサーで代替しようとすると、1つの設備に対して天文学的な数のデバイスと通信コストが必要になり、投資対効果(ROI)が見合いません。AIは「学習した異常パターン」を検知できても、「初めて見る予知の予兆」に対して「何かおかしい」と違和感を抱く人間の柔軟な感性を、現時点では超えられないのです。
非定型なトラブルへの「現場の創造力」
保全業務の神髄は、実は「修理そのもの」よりも「不足の事態への即興的な対応」にあります。
・ボトルが固着して動かない
・図面にはない配線の干渉がある
・限られた手持ちの工具で応急処置をしなければならない
こうした、定型化できない物理的制約の中での創意工夫は、人間にしかできない高度な知的作業です。あらゆるトラブルパターンを想定してロボットを制御することは、現実的なコストの範囲内では不可能に近いといえます。
設備保全の自動化の進め方

設備保全の自動化は、一気に進めるものではありません。業務を整理し、小さく始めることが成功への近道です。
STEP1 現状の業務を分解し、可視化する
初めに行うのは、設備保全業務の棚卸です。巡回・点検・記録、確認・判断、見直し・改善といった業務を洗い出し、それぞれにどの程度の工数がかかっているのかを整理します。この段階では、自動化を前提に考える必要はありません。重要なのは、「人が実際に何をしているのか」を正確に理解することです。業務の全体像を把握することで、後の判断がぶれにくくなります。
STEP2 自動化しやすい業務を見極める
次に、洗い出した業務を「自動化しやすい領域」と「人が担うべき領域」に整理していきます。
判断の軸はシンプルです。その業務は定型的か、繰り返し発生しているか。判断基準が明確で、判断責任を伴わないか。これらの条件に当てはまる業務は、巡回・点検・記録といった「Do」の領域に多く見られ、「自動化しやすい領域」にあたります。
STEP3 「デジタル化」「見える化」から着手する
自動化の第一歩として取り組みやすいのは、記録のデジタル化と設備状態の見える化です。点検結果を紙ではなくデジタルで残し、写真や数値、履歴を一元管理できる状態を整えます。
また、遠隔からでも設備の状態を把握できるようにすることで、巡回や確認の負担を軽減できます。この段階で重要なのは、最初から完璧を目指さないことです。一部の設備や限られたエリアから始めるだけでも、十分な効果を得られます。
STEP4 データを蓄積し、判断を支援する仕組みへ
データが蓄積されてくると、次に可能になるのが「比較」や「傾向把握」です。前回との違いや過去データとの比較により、わずかな変化の兆しに気づけるようになります。
このフェーズでは、AIや分析技術は人の判断を置き換える存在ではありません。あくまで、判断を支援するための材料を提供する役割を担います。人はその情報をもとに、より高い判断に集中できるようになります。
STEP5 予知保全へと段階的に広げる
十分なデータが揃った段階で、初めて予知保全が現実的な選択肢となります。故障の兆候を早期に把握し、突発的な設備停止を減らすことで、保全コストを平準化できるようになります。
ここまで進むと、設備保全は現場任せの属人的な業務ではなく、データに基づいて計画的に管理する業務へと変化していきます。
このワークシートでできること
✓ 現在の作業・点検業務を工数ベースで情報を整理
✓ 自動化の可能性を、作業単位に可視化
✓ デジタルツール導入優先度の検討まで実施可能
業務整理を行うことで、導入すべきデジタルツールが自動的に見えてきます。
ワークシートを利用し、自社の業務を整理してみませんか?

設備保全の自動化でよくある失敗パターン
目的を決めずに「とりあえずデータを集めてしまう」
デジタル化の初期によくあるのが、目的を決めないまま、取れるデータをすべて集めてしまうケースです。リアルタイムに出力されるデータを片っ端から見える化すると、見る画面が増え、アラートが鳴り続け、データは次第に資産ではなく負担になっていきます。
将来の活用を考えてデータを蓄積すること自体は間違いではありません。「何を判断したいのか」という目的が整理されていることが重要です。目的が明確であれば、日常的に監視すべき指標は自然と絞られ、ダッシュボードもシンプルになります。
まず決めるべきは、データを集めることではなく、判断基準を明確にすることです。目的が定まることで、必要なデータが見えてきます。
一部の人しか使えないツールを導入してしまう
デジタル化の検討は、どうしても少人数で始まりがちです。その結果、特定の人にとっては便利でも、現場全体では使われないツールを導入してしますケースがあります。
導入時には説明できていても、「結局、使い方が分かるのはあの人だけ」「忙しくて現場では使われなくなった」といった状況に陥り、システムが形骸化してしまいます。
こうした失敗の多くは、“誰が使うか”ではなく、“誰が広めるか”を決めていないことが原因です。ツール選定と同時に、運用が浸透する設定まで考えることが、デジタル化を定着させるポイントです。
システム導入や「全自動化」が目的になってしまう
デジタル化を進める中で、システムを導入すること自体が目的になってしまうケースも少なくありません。「自動化できるから」「AIに任せられるから」とツールに頼りすぎることで、本来人が行うべき判断や分析までブラックボックス化してしまいます。
その結果、「なぜこの異常が起きたのか説明できない」「判断の根拠がシステム任せになっている」といった状態に陥ることがあります。
デジタル技術は人を置き換えるものではなく、判断を支援するための情報です。導入の前後で、「どこまでを人が考え、どこからをシステムに任せるのか」を整理しておくことが、現場の理解や判断力を高めるポイントになります。
まずは、情報整理+デジタル化・見える化から始める
設備保全の自動化では、すべてを一気に変える必要はありません。「これなら試せそう」と思えるところから、段階的に進めていくことができます。
巡回や点検、記録といった日常業務の中には、少しのデジタル化や見える化だけで、現場の負担を減らせる可能性があります。まずは、作業を止めずに導入しやすく、効果を実感しやすいところから取り組むことで、現場での使い方を具体的にイメージでき、無理なく業務に根付いていきます。
その結果、現場で自然に使われる形が見え、部門を超えて展開できるイメージが描けるようになります。
「失敗しない進め方」を選ぶために、まずは小さく、デジタル化や見える化から試してみてはいかがでしょうか。
このワークシートでできること
✓ 現在の作業・点検業務を工数ベースで情報を整理
✓ 自動化の可能性を、作業単位に可視化
✓ デジタルツール導入優先度の検討まで実施可能
業務整理を行うことで、導入すべきデジタルツールが自動的に見えてきます。
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