【福本勲氏と考える製造DXの今!】Part2:全体最適&デジタル化の難しさ
スマートファクトリー

DXへの関心が高まる製造業界でも、本来のDXに取り組めている企業は多くありません。製造業のDX実現には何が必要か、合同会社アルファコンパス 代表CEOの福本勲さんをお招きし、当社の製造部門担当と対談しました。全3編におよぶ本シリーズのうち、Part2では、デジタル化の目的についてお話ししていきます。

目次

    前回のパートはこちら

    対談者紹介

    荒井 毅一

    NSW株式会社
    荒井 毅一
    大手製造メーカーに勤務後、TPS(トヨタ生産方式)の社内展開、新規事業立上げなどを経てNSWに入社。国内・海外工場システム構築・展開など、特に製造分野に深い知見を持ち、顧客目線での、お客様のDX推進を支援しています。

    福本 勲

    合同会社アルファコンパス
    福本 勲
    合同会社アルファコンパスの代表CEOを務め、製造業のデジタルトランスフォーメーションやマーケティング支援に注力しています。また、中小企業診断士としても活動し、講演や執筆を通じて製造業の変革を推進しています。

    堀内 忠彦

    NSW株式会社
    堀内 忠彦
    大手精密機械メーカーに勤務後、コンサルタントを経てNSWに入社。お客様と共創、伴走するコンサル業務で製造業主体のDXを推進。技術士(経営工学部門)として、生産業務プロセス改善、SCM、現場改善指導等にも従事しています。

    デジタル化しても、人の作業はなくさない

    福本さんアイコン
    日本の製造業の方を見ていると、3D-CADで設計しているのに、発注時にサブサプライヤー向けに2Dデータにわざわざ落として印刷してFAXで渡しているようなケースもあります。2Dが悪だと言っているわけではないのですが、3Dデータであれば組立図もできるし、干渉のチェック・振動解析などもでき、公差のシミュレーションも可能です。一貫して3Dデータを使えれば、共通部品化なども進むと思うのですが、お二人はどう思いますか?

    堀内さんアイコン
    3Dデータの問題は、それだけデータ量の大きなものを、Tier2、Tier3の企業でも解析できるかだと思います。XVL*のようなフォーマットであれば一応見ることができるんですよね。

    *XVL(eXtensible Virtual world description Language)
    XVL (eXtensible Virtual world description Language) は、ラティス・テクノロジー株式会社が開発した超軽量3Dデータフォーマット。3D CADデータを数百分の1にまで軽量化し、形状データと製品構成、寸法、注記などの情報を一つのファイルにまとめることができます。

    XVL について 【ラティス・テクノロジー】

    堀内さんアイコン
    デジタル化の導入には、こうしたフォーマットも並行して普及させていくことが重要だと思ってます。

    荒井さんアイコン
    私も3Dベースで動いた方がいいとは思いますが、やはり末端には、プラットフォームの統合なり、道具を用意してあげないといけないと思いますね。

    福本さんアイコン
    Tier3の企業にAltairやEPLANを導入してと言っても無理ですからね。技術的にはJTフォーマットのビューワーがあれば3Dデータも見れるので、それをどのように普及させていくのかが大事だということですね。

    荒井さんアイコン
    3Dデータを活用する大きな利点は、実物試作がなくても検証できるところですよね。試作費用ってバカにならないので、試作物を作らずとも、設備稼働したあとのワークの位置だとか、どうしたら不良が出るのかとか、その辺も全部デジタルでできるのが大きいと思います。

    福本さんアイコン
    現実で落とすと一回で壊れちゃうような試作物も、デジタル空間であれば何百万回、何千万回とシミュレーション検証することができますからね。

    荒井さんアイコン
    それに、こうした開発革新ができれば人が浮くんですよ。

    堀内さんアイコン
    そこから今度は付加価値に展開できますよね。定型的な作業はデジタルで効率化して、人間は非定型的な作業に注力して付加価値を高めていく。これがDXで大事なことだと思います。

    荒井さんアイコン
    前の会社の当時の会長は、人を切らないという方針だったんですね。なのでデジタル化して人が浮いたあと、人を切らずに何をやったのかというと、製造現場の難作業を開発段階で解消する取り組みで、開発設計するにあたって、どうすれば自動機を簡単な動きに出来るか、付加価値を高めていけるか、そうした量産前の検証に人を使えるようになったんですね。何がボトルネックかは現場の人が一番わかってるので。

    福本さんアイコン
    デジタル化は人の作業をなくすのではなく、人の作業の付加価値を高めるためのものだということですね。

    付加価値の先に、賃金の上昇がある

    福本さんアイコン
    3Dデータの活用例でいえば、お客様が製品を購入する前に、色を変えたらどうなるか、オプションやサードベンダーのパーツを着けたらどうなるか、そうしたものを全部3D空間で体験できるような付加価値も提供できるようになりますよね。

    堀内さんアイコン
    そうして付加価値を高めた先に、賃金の上昇もあると思うんですよ。失われた20年、30年と言われていますが、G7の中でも2000年からずっと日本だけ賃金が横ばい*で、低いままですから。

    *引用:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析 -労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進に向けた課題-(全体版)」, p.99
    物価の伸びを考慮した実質賃金をみると、1991年の賃金を100とすると、2020年の日本は103.1となっており、イタリアを除く各国と比較すると賃金の伸びが低くなっていることが分かる。さらに、リーマンショック後の2010年以降の実質賃金は、イギリスやイタリアなど日本以外でも実質賃金が伸び悩む国もあることが分かる。
    資料出所 OECD.StatにおけるAverage Annual Wagesにより作成。購買力平価ベース。
    (注)
    1)1991年を100とし、推移を記載している。なお、OECDによるデータの加工方法が不明確なため、厳密な比較はできないことに留意。なお、我が国の計数は国民経済計算の雇用者所得をフルタイムベースの雇用者数、民間最終消費支出デフレーター及び購買力平価で除したものと推察される。
    2)名目賃金は、OECDが公表する実質賃金に消費者物価指数の総合指数を乗じることで算出している。

    引用:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析 -労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進に向けた課題-(全体版)」, p.99

    福本さんアイコン
    G7の中だけでなく、BRICSやOECD平均と比較*しても、日本の賃金は相対的に低くなってるんですよね。

    *OECD 年間平均賃金(UCD)
    OECD(経済協力開発機構)が集計している、加盟国(38ヵ国)別の2024年の年間平均賃金(UCD)。OECD加盟国全体の平均と比較しても、日本の年間平均賃金は低くなっている。

    Average annual wages【OECD】

    堀内さんアイコン
    デジタル化の先にある、付加価値を高めたり、給料を上げたり、生活を豊かにしていくといったところまでの意識を、制度も含めて全体で取り組む必要があると思います。

    福本さんアイコン
    そうですよね。デジタルであれば人件費がかからずに24時間働けて、減価償却などはあるにせよ、働いた分だけすべて還元されるので、そこが大きな利点ですよね。

    日本に合ったERPの導入

    堀内さんアイコン
    “DX”って、なかなか言葉だけでね━━

    荒井さんアイコン
    DXって言葉の意味が広いですからね(笑)

    堀内さんアイコン
    DXって具体的にどういうステップなのかを気を付けないと、単にデジタル化しました。データ取りました。で終わると、それはDXじゃないだろうと思うんですよね。

    福本さんアイコン
    日本の企業でERPを導入すると時々あるのが、現場のオペレーション効率を重視して、フロントオペレーションだけでなく、データモデルまでカスタマイズしてしまって、データガバナンスが効かなくなったりしてる状態が起きてしまうというケースなのですが、こうしたERPの導入については、お二人はどう思いますか?

    荒井さんアイコン
    アドオンした後でバージョンアップに苦労するそうですね。ベストプラクティスという仕組みが高く、どうしても会計や購買だけ導入して真ん中は自分たちで作って展開することになって、それで失敗するケースが多い*という話は聞きました。

    *引用:ジャパンSAPユーザーグループ「日本企業のためのERP導入の羅針盤~ニッポンのERPを再定義する~」, 2019, p2
    これまでの20数年間、日本企業は、レガシーシステムの刷新とBPR推進を目指し、こぞって基幹業務統合型アプリケーション(ERP)のパッケージであるSAP R/3の導入を行ってきた。今や、SAP ERPの導入企業は、日本で2,000社を超えると言われている。
    しかしながら、導入したSAPを充分に活かして、本来の目的であったリアルタイム経営、データを活用した経営を実現している企業は必ずしも多くはないのではないか。SAPを導入したものの、業務プロセスを変革することが出来ず、結局アドオンを多数開発し、標準化にはほど遠く、データ活用もままならず、維持管理に多大なコストをかけているという声をJSUG会員企業からも多く聞いている。

    引用:ジャパンSAPユーザーグループ「日本企業のためのERP導入の羅針盤~ニッポンのERPを再定義する~」, 2019, p2

    堀内さんアイコン
    実際にERP導入の経験があるんですが、ものづくりの現場まで連携できてるかというと、やはりまったくできてなくてですね。結局、上の会計システムとか販売計画とか、そこで止まっちゃうんですよね。

    荒井さんアイコン
    ERPの導入時は経営側の切り口で入れないと上手くいかないというのが、あまり一般常識になっていない気がしますね。

    堀内さんアイコン
    システムを導入したら、それをモノづくりの情報源として、どうやってデータを活用するかが重要で、やはり目的が大事*ですよね。「システム入れました」で終わるのではなく、経営的、将来的な目標があって、現場がどうすると、そのシステムで繋がれるのか、データを活用できるのかという全体像が必要ですよね。

    *日本企業のERP導入の課題・問題点
    (1)ERPの稼働自体が目的になっている
    (2)プロジェクトの理念、目的が明確になっていない
    (3)膨大なアドオンが作られている
    (4)アドオンが増えたために、コストがかかりすぎている
    (5)製品に対する知識や人的リソースが足りない
    (6)IT部門のあり方や、パートナーとの関係自体に問題がある
    (7)導入企業の中に権限を持つビジネスプロセスオーナーがいない

    引用:ジャパンSAPユーザーグループ「日本企業のためのERP導入の羅針盤~ニッポンのERPを再定義する~」, 2019, p13

    福本さんアイコン
    EU/ドイツでデータを分散して持ってもよいのは、どこにどういったデータがあるのかを把握し、トラストを持った人がアクセスすることで、データを集約しているのと同じことができるという考えからなんですよね。その「N対N」の間のゲートの部分を担える、プレイヤーの存在が大事なのですよね。

    堀内さんアイコン
    そこでメーカーさんがそうした考え方まで理解できてるかというと、できていないと思うんですよ。で、変なところまで手をつけようとして、高い値段払ってまでExcelチックなものを開発して、結果としてムダを作るようなことになっちゃうんですよね。

    荒井さんアイコン
    日本に合ったやり方が必要なんだろうと思ってます。ERPってどちらかといえばITの仕組みで、OTまで面倒見れないんですよね。

    福本さんアイコン
    そうですね。

    荒井さんアイコン
    NSWで扱っている、Rockwell AutomationさんのPlex MES*というSaaSサービスがありまして、これはMESなのでOTまで面倒が見れて、ERPの機能も持ってるんですね。

    *Plex製造実行システム(MES)
    Rockwell Automation社の提供するクラウド型の製造実行システム(MES)。製造現場から経営管理まで、あらゆる情報を可視化・自動化して、スマートマニュファクチャリングを実現します。

    Plex MES【NSW】

    荒井さんアイコン
    SaaSなのでカスタマイズは出来ないんですが、Fit to Standardという考え方で、逆に使いこなせればコストもかなり安くバージョンアップ対応に苦労することもなくなるだろうということで、Rockwellさんとパートナーになって取り扱っています。

    経営層と現場を繋げる人

    福本さんアイコン
    経営層から現場にデジタル化が丸投げされると、例えばマネージャーさんって自分の仕事の範囲しか見えない。その見える範囲で一生懸命何かしようと考えてしまうのだと思います。ボトムアップの問題はそこにあって、見えている範囲が狭いとその範囲のカイゼンしかできないと思います。なので全体を俯瞰できる経営層が意思決定をしなければいけないのだろうと思います。

    堀内さんアイコン
    ただ、経営層だけでも現場の末端まで見れないんですよね。なので全体を見るには経営層の下にいるミドルもすごく大事だと思います。

    福本さんアイコン
    ミドルアップダウンという考え方ですね。

    堀内さんアイコン
    そうした経営層と現場を繋げるのがすごく大事で、ただ、でもそこが、メーカーさんの方で全部できるかというと、できないと思うんですよ。システム全体の仕組みが分かってない中で、自分たちだけで決めてっていうのは中々難しくて、そこにはやはり、我々NSWとか、ITの経験層がミドルの位置に入り込んで全体を見れるようにサポートしていく必要があるんだろうと思いますね。

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    NSWが実現するDX

    NSWは長年にわたる幅広い業種での豊富な実績と経験を生かし、お客様の潜在課題を多彩なデジタル技術で柔軟に解決することで、よりよい未来を築いていきたいと考えています。NSWの提供するスマートファクトリーソリューションもぜひご覧ください。
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