【福本勲氏と考える製造DXの今!】Part1:製造DXの要「全体最適」とは?
スマートファクトリー

DXへの関心が高まる製造業界でも、本来のDXに取り組めている企業は多くありません。製造業のDX実現には何が必要か、合同会社アルファコンパス 代表CEOの福本勲さんをお招きし、当社の製造部門担当と対談しました。全3編におよぶ本シリーズのうち、Part1では、そもそも全体最適とは何なのかについてお話ししていきます。

目次

    はじめに ~製造業の現状と課題~

    2024年版ものづくり白書*では、製造業におけるDXについて全体最適までいかず、個別工程のカイゼンに留まっている企業が多いといった旨の指摘がされており、世間での注目度と実情に大きな差があると思われます。
    *引用:経済産業省「2024年版ものづくり白書(全体版)」, p.204

    製造事業者におけるDXは、依然として「個別工程のカイゼン」に関する取組が多く、「製造機能の全体最適※ 」を目指す取組は少ない。また、新たな製品・サービスの創出により新市場を獲得し、「事業機会の拡大」を目指すDXの取組は更に少ない。
    ※経営戦略の遂行に向け、製造部門だけでなく、設計、開発、調達、物流、営業等の部門とも連携し、例えば、原価管理、部品表、工程表の一元管理等を行うこと。

    備考:「わからない」及び「未回答」は集計から除いている。
    資料: (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業/製造現場のダイナミック・ケイパビリティ強化施策と今後の普及に係る調査事業」にて実施したアンケートから経済産業省作成

    引用:経済産業省「2024年版ものづくり白書(全体版)」, p.204

    今回私たちは、合同会社アルファコンパスの福本勲さんをお招きし、こうした製造業の現状に関する専門的な知見をお伺いしながら、今、そして将来、製造DXに向けて私たちNSWがどうあるべきかについてお話ししました。全3編におよぶ本シリーズのうち、Part1にあたる今回は全体最適とは何か?を中心にお話していきます。

    対談者紹介

    荒井 毅一

    NSW株式会社
    荒井 毅一
    大手製造メーカーに勤務後、TPS(トヨタ生産方式)の社内展開、新規事業立上げなどを経てNSWに入社。国内・海外工場システム構築・展開など、特に製造分野に深い知見を持ち、顧客目線での、お客様のDX推進を支援しています。

    福本 勲

    合同会社アルファコンパス
    福本 勲
    合同会社アルファコンパスの代表CEOを務め、製造業のデジタルトランスフォーメーションやマーケティング支援に注力しています。また、中小企業診断士としても活動し、講演や執筆を通じて製造業の変革を推進しています。

    堀内 忠彦

    NSW株式会社
    堀内 忠彦
    大手精密機械メーカーに勤務後、コンサルタントを経てNSWに入社。お客様と共創、伴走するコンサル業務で製造業主体のDXを推進。技術士(経営工学部門)として、生産業務プロセス改善、SCM、現場改善指導等にも従事しています。

    「ジャストインタイム = 全体最適」とは限らない?

    福本
    私、ウラノス*の委員もやっていたことがありまして、そこで企業が実際にジャストインタイムの取り組みをやっていますっていうお話も伺います。

    *Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)
    経済産業省が、関係省庁やIPA、NEDOと協力してエコシステムを構築し、経済の成長と、人手不足や災害の激甚化、脱炭素への対応といった社会課題の解決を両立させたSociety 5.0の実現を目指す取り組み。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(物理空間)を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指している。

    Ouranos Ecosystem (ウラノス・エコシステム) 【経済産業省】

    福本
    ただ、実際の話ではありませんが、もし「1日に4回、ジャストインタイムで配送して製造工程の最適化をしています。しかしトラックの平均積載効率は25%です」という話になったとしたらどうでしょう━━

    荒井
    それはダメですね(笑)

    福本
    そう、ダメなのだと思うわけですよ。配送の回数を減らして1回で運んだ方がよいのではないかと。運送側の負担を減らしたほうが、全体としては最適かもしれないですよね。

    荒井
    ジャストインタイムといっても、輸送トラック見て積載効率が25%しかないと当然、「お前は空気を運んでるのか」って怒られますから(笑)。それは全体最適とは絶対に言えない。

    福本
    工場側で効率化して生産性上がりました。しかし、在庫が増えました。それで物流側では輸送コスト上がって減益になりました。となったら、全体最適と呼べないですよね。だから多分、全体最適は一社だけで実現できない、川上も川下も含めてやっていくことではないかと思います。

    荒井
    私がトヨタさんから教わっていたのは一部だけ改善すればいいわけじゃないですよ。他業種と組んだ共同輸送などで、サプライチェーン全体を考えないといけないですよ」という話で、耳にタコができるくらい言われていたことですね。

    福本
    グローバルサプライチェーンをどうやって最適化するか?という話もあるなかで、調達にしても、生産にしても、在庫管理、物流、販売にしても、それらのプロセス全体をどう最適化するかが大事なのだと思います。

    自分たちだけではなく、全体を変えていく

    堀内さんアイコン
    ただ「全部がフラットに最適化できて、すべてのトラックが空気を運ばない」というは、現実的に不可能な話なんですよね。なので、こうなったら“最適”というのを、ある程度決め打ちする必要があると思いますね。

    荒井さんアイコン
    “最適”と言っても、何をもって最適とするのか、その指標が必要ですからね。

    堀内さんアイコン
    「何が最適か?」は業界や時代によって見方が異なるわけで、色んな部品調達なども含めたサプライチェーン絡みで指標が変わってくる。そうすると当然自社だけでない、状況によって指標を変える、フレキシブルな最適化も必要かと思いますね。

    福本さんアイコン
    昨今では物流の2024年問題*による、物流の見直しの気運の高まりが起きていますよね。

    *物流の2024年問題
    2024年4月1日から施行された働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることに伴い、輸送能力の低下ドライバー不足の深刻化、運賃の値上げ物流コストの増加などを懸念する問題。この問題に対して、デジタル技術の活用や、荷主や消費者と協力して効率化する商慣行の見直しが必要とされている。

    図引用:全日本トラック協会「物流の2024年問題対応状況調査結果について」, p.6, p.10

    福本さんアイコン
    こうした状況では、荷主の方が一方的に「最適化しました」で終わらせるのではなく、物流も含めた全体で最適化することが益々求められるようになります。OEMに近い川下の方たちから、自分たちだけはなく、全体を変えていく気運が盛り上がることが大事かなと思います。

    荒井さんアイコン
    企業対企業で争っているような時代ではなく、他の企業とグローバルに競争力を高めてく時代ですからね。

    堀内さんアイコン
    そうなんですよ。情勢が不安定な、変化の激しい時代になっていて、今まで個の一企業だけではできなかったところを、同業他社で補完しあうことが全体最適に繋がるんですよね。自社だけ効率上げて同業は落としてたら、全体最適にならないですからね。

    荒井さんアイコン
    自動車業界ではミカタプロジェクト*」という、経済産業省が旗振りしてるプロジェクトがありまして、Tier1、Tier2、さらにその下にもサプライヤーさんいますが、親のOEMメーカーさんも、発注がバラバラなんですね。なのでそこで統一化したプラットフォームを作って、中堅サプライヤーさんたちが困らない、効率化を助ける動きもありまして━━

    *ミカタプロジェクト
    自動車産業に関わる中堅・中小企業が電動化やデジタル化(CASE:Connected, Autonomous, Shared, Electric)に対応できるよう電動車部品の製造や技術適応をサポートし、企業の事業転換や再構築を支援する取り組み。

    自動車産業「ミカタプロジェクト」【経済産業省】

    荒井さんアイコン
    こうした国主導なのか、それとも業界主導がいいのかはわからないですけど、複数企業の接点である物流だとか注文だとかEDIだとかの要所で、みんなが同意できる指標を作る取り組みが、やはり必要なんじゃないかと思いますね。

    デジタル化した先で、データをどう扱うのか

    福本さんアイコン
    2024年度のものづくり白書では、事業領域がグローバルに多角化するほど収益性が下がっているというデータ*がでていました。

    *多角化度と収益性の関係
    2024年版ものづくり白書では、事業や地域が多角化するほど収益性が下がる傾向にあり、さらにそれらが全体的に、欧米と比較すると日本企業が低いことが指摘されています。
    備考:Refinitivより取得した各企業のセグメントデータに基づき各国/地域内EBITDA実額上位500社(2023年時点直近会計年度末)の製造事業者を対象とし集計。着色の定義については、3か国(地域)の各セル内の収益性を横断的に比較し、収益性が低いセルは濃い赤、高いセルは濃い青といったグラデーションで示している。n数が5件未満の場合はグレーで示している。欧州対象国はEU先進16か国、EU非加盟先進4か国(スイス、ノルウェー、アイスランド、英国)で構成される。
    資料:Refinitivより(株)NTTデータ作成(経済産業省「第2回グローバル競争力強化のためのCX研究会 資料3事務局提出資料」)

    図引用:経済産業省「2024年版ものづくり白書(全体版)」, p.192

    福本さんアイコン
    こうしたことから、日本企業では、グローバルなコーポレートトランスフォーメーションがうまくいってないのではないか? といった懸念が2024年版ものづくり白書には記されているのですが、海外経験された立場として実際、お二人はどのように感じるでしょうか?

    荒井さんアイコン
    海外に行っていたのはだいぶ昔ですが……やはり結構、現地の社長に一任されていましたね。で、当時はシステムもまだきちんと繋がってなかったので、大したデータが取れなかったんですよ。なので日本と同じ指標で評価しようとしても正確に評価できないような状況だったとは思いますね。

    福本さんアイコン
    日本や海外のいろんな製造業さんと仕事をしてきて、日本の強みとして感じていることとして、日本の製造業の方々は例えば、どこにいくつ在庫があるのかを口頭ですぐに答えられたといったことがあります。欧米の企業でも、そんなこと出来る人は見たことがない。ただ逆に、だからこそ日本では、デジタル化をしなくても人が対応できた分、デジタル化が遅れてグローバルに対応しづらくなっているという課題が今浮き彫りになっているという面もあるのではないかと思うんですよね。

    荒井さんアイコン
    最近でもメーカーさんからの要望で、海外拠点も含めて、在庫やトラブル、経営情報を適切に評価できる軸を作るためにDXを進めたいという話もありまして、やはりご指摘のように海外コントロールがなかなかうまくいってない*んだろうと思いますね。

    *引用:経済産業省「2024年版ものづくり白書(全体版)」, p.193
    現状では、多くの日本企業は、日本本社から海外現地法人を含む子会社へ人材を出向させることで間接的に本社の影響力を持たせる一方で、組織設計を始めとする様々な権限を子会社に委譲する「連邦経営」を行っていると言われている。その結果、それぞれの子会社に経理や人事等の機能が重複して所有され、固定費が膨張する一方で、各々が個別に制度・ルールを作り込むため、全社横断的なシステムやルールの整備・統一が進まず、急激なグローバル展開に伴う経営の複雑性の高まりともあいまって、非効率的な状況を生み出していると考えられる。
    資料:(株)野村総合研究所「NRI Management Review 2011 Vol.26」や、デロイトトーマツコンサルティング(同)「グローバルビジネスにおける経営管理」などを参考に(株)NTTデータ作成(経済産業省「第4回グローバル競争力強化のためのCX研究会 資料3事務局提出資料」)

    引用:経済産業省「2024年版ものづくり白書(全体版)」, p.193

    堀内さんアイコン
    前の仕事で、在庫などのグローバルサプライチェーンに必要な情報を見える化する仕組みを作ったことがありまして、その時に思ったのは、日本人ってデータの見せ方はうまいんですよ。綺麗にダッシュボードを見せるんですよね。ただ今はVUCAと呼ばれるような、環境問題であったり、戦争であったり、そうした曖昧な要因が増えている時代で、見せ方が上手いだけの見える化では、変化に追いつけないと思ったんですよ。

    福本さんアイコン
    やはりサプライチェーンがグローバルに広がっていくと、みんな目に見えないところで仕事をするようになって、その目に見えないところこそデジタル化していく必要があるということですよね。

    堀内さんアイコン
    どこの情報もデータで取れていて、どこに行ってもデジタルで見えて、そこからはやはり見える化が関わってくるんですが、そうした、あらゆる情報をデジタル化した活用をしていかないと、どうしても全体最適には繋がっていかないと思いますね。

    荒井さんアイコン
    「データが読めない人は話にならん、見える化してない職場もいかん」というのはもちろん言われていると思うんですが、その中で私が教わったのはデータしか見ないで、データだけで判断する人が一番いかんという話なんですね。デジタル化した先で、そのデータをどう扱って、自分の企業の良いところを伸ばしたいのか、弱いところを補完していくのか、そこが一番大切なんじゃないかと思いますね。

    次のパートはこちらから

    NSWが実現するDX

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