防爆エリア(危険場所)においてはDXの推進が他業種と比べると遅れている傾向が見受けられます。その理由の1つとして、防爆対応の製品が普及していなかったことが挙げられています。近年、防爆エリアに対応したデジタル機器やソリューションが開発され、IT・DX導入の取り組みが進められるようになりました。
防爆・防爆構造とは
防爆とは、火災や爆発を防止する対策のこと
可燃性物質となるガス・蒸気・粉塵が存在する場所において、電子機器やその他の点火源による火災や爆発が起きることを防止する技術的な対策のことです。石油精製・石油化学・化学工場プラントなどで漏れた可燃性ガスや可燃性液体の蒸気が空気と混合すると、熱発生のガスになります。そのガスが電気火花や高温度の物体などの点火源に触れると、火災や爆発が起きる可能性があります。
防爆エリア(危険場所)では、使用する電気機械器具も爆発を防止する構造の物、つまり防爆機器を使用しなければなりません。爆発性雰囲気が発生する可能性のある場所で使用する電気機器については、爆発防止をする構造『防爆構造』が施された電気製品『防爆電気機器』を、危険の程度に応じて選定することになっています。
DXの取り組み状況【国内企業全体・製造業・防爆エリア所有企業】
IPAから開示されている「DX動向2024」進む取組、求められる成果と変革の調査報告によると、国内企業全体におけるDX取り組み率は73.7%となり、2022年度調査の米国の値を超えています。また製造業全体では77.0%と業種別ではDX取り組み率が高い傾向にあります。
一方で、防爆エリアを所有する企業のDX取り組み率に関しては、まだまだ検討が進んでいないのが現状です。
なぜ、防爆エリアでDXが導入されていないのか?
理由1. 防爆基準の整備に時間がかかっていた
国際的な防爆基準が整っておらず、各国や業界ごとに異なるルールが存在していたため、統一した製品を開発することが困難でした。基準を統一するためには、産業全体で防爆技術の重要性を認識し、時間をかけて標準化を進めていく必要がありました。日本では1969年に「電気機械器具防爆構造規格」(通称:構造規格)が制定されました。国内の防爆機器の設計と製造において基盤となる規格です。これにより、日本国内の防爆機器の設計が一定の基準を満たすようになり、爆発リスクを抑えることができました。
しかし国際的な規格との整合性が取れていなかったことから、2008年には日本の防爆規格が国際基準と一致するよう改訂されました。
防爆規格の種類
防爆規格とは、爆発の危険がある環境で使用される機器や設備の安全基準を定め、機器や設備が安全に動作することが保証された規格のことです。機器がどの程度の爆発に耐えられるか、安全性の確保が必要かが定められています。また世界各国で異なる規格があります。
■日本の防爆規格
JIS C 0911 電気機械器具防爆構造規格 |
爆発性雰囲気の存在する場所で使用される電気機械器具の設計・構造に関する基準や要件を定めた規格。 防爆機器がどのように設計され、製造されるべきかという具体的な技術基準を提供。 |
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JPEx | 日本国内での防爆規格を策定し、防爆機器の認証を行う団体。 国内の防爆機器の認証に使用され、国際的な防爆規格と整合性を取る形で策定。 |
■国際的な防爆規格
IECEx | 国際電気標準会議(IEC)が策定した防爆規格となり、国際的に通用する安全基準を確立させている。 機器の設計、製造、試験、認証に関する標準を定め、品質と安全性の保障基準を共通化させている。 |
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ATEX | 欧州連合(EU)の防爆指令として制定。 ATEX規制は「ATEX 95(機器指令)」と「ATEX 137(労働者保護指令)」の2つの指令がある。 |
UL | アメリカのUnderwriters Laboratoriesが制定する防爆規格。 アメリカ市場での製品認証を目的としている。 |
KCs | 韓国の防爆規格で、KOSHA(韓国労働安全衛生庁)が管理。 韓国市場での防爆機器の販売・使用される製品に必要な認証である。 |
Ex-CCC | 中国の防爆規格で、CCCは「China Compulsory Certification」(中国強制認証)を指している。 中国市場での防爆機器の販売・使用される製品に必要な認証である。 |
また爆発危険区域に設置される電気設備が、どのように安全に設置・運用されるかのガイドラインとなる『工場電気設備防爆指針』もあります。設置後の防爆設備の運用、保守、管理をガイドし、安全性を確保する指針として活用されます。
危険場所の分類
爆発性雰囲気が生成されている場所を『危険場所』といい、危険場所の中でも爆発性雰囲気が生成される頻度や時間が異なるため、危険度に応じて区分けされます。
■ガス蒸気危険場所
特別危険個所 (0種場所 / Zone0) |
爆発性雰囲気が連続して存在するか、長時間存在する場所。 例:可燃性ガスが保管されているタンクの内部。 |
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第一類危険個所 (1種場所 / Zone1) |
通常の運転状態で爆発性雰囲気が存在する可能性がある場所。 例:可燃性ガスを放出するタンクの開口部付近。 |
第二類危険個所 (2種場所 / Zone2) |
通常の運転状態では爆発性雰囲気が存在しないが、異常時に短時間存在する場所。 例:配管の劣化によるガス漏れが発生する可能性のある場所。 |
■粉塵危険場所
Zone20(ゾーン20) | 粉塵が常時または長時間、空気中に漂い続け、爆発性雰囲気が連続して存在する場所。 例:製粉工場の粉体が絶えず発生するエリアや、木材加工の集塵機内部など、常に高濃度で浮遊する場所。 |
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Zone21(ゾーン21) | 通常の運転状態で爆発性粉塵雰囲気が発生する可能性がある場所。 例:粉体の充填作業エリアや、木材加工のサンディングゾーンなど、定期的に空気中に舞うような場所。 |
Zone22(ゾーン22) | 通常の運転状態では爆発性粉塵雰囲気が存在しないが、異常時に短時間存在する場所。 例:粉塵が発生する設備付近など、一時的に舞い上がる可能性のある場所。 |
理由2. 防爆対応の製品が少ない
防爆機器は理由1で述べた防爆規格に則った製品の開発が必須となります。
設計には厳しい基準があることから技術的な難易度が高く、繰り返し開発が行われることもあるため、提供できる形になるまで年単位での時間を要します。そのため頻繁に製品をリリースすることが難しく、防爆対応の製品は、非防爆対応の製品と比べて少ない傾向にあります。
近年では防爆仕様のIT製品として、タブレットやスマートフォン、ネットワーク機器などのデバイスが市場に出回るようになりました。
しかし、機械や設備データを収集する『防爆対応のIoTセンサー』は少ない現状です。データの収集・利活用・見える化といった点でIoTセンサーは必需品になりますので、防爆対応のIoTセンサー開発は急務といわれています。
理由3. DXを推進する人材が不足している
防爆エリア(危険場所)にIT製品を導入する場合、社内の承認フローにおいて、現場の状況に沿った規格の製品であるかどうかの確認が必要です。防爆技術に精通した専門的な知識とITに関する知識の両方が必要になることから、導入や運用のハードルが高い傾向にあります。
また防爆製品の導入では高額なコストがかかります。IT製品機材費や工事費、DXを推進するための人件費、メンテナンスや更新といった運用費など、総合的な負担が発生します。
しかし、DXの実現に向けて取り組むことで社内課題がクリアとなり、発生した費用以上の効果が現れる場合もあります。社内のみでDX推進ができない場合は、外部ベンダーへ依頼をすることで迅速にDXに取り掛かることができます。
防爆対応製品を選ぶ際の3つのポイント
適切な保護が施されているか
準拠・認証取得できているか
耐久性が確保されているか
防爆対応製品のご紹介【Zone1・Zone2・Zone22対応】
RealWearは、製造業・建設業向けのスマートグラスであり、防爆仕様のモデルも提供されています。このデバイスは音声操作によるデータの閲覧や入力を行えるため、両手を使った作業時や危険な環境でも利用できます。リアルタイムでの情報共有や遠隔支援が可能のため、作業の効率化を図れます。また、高い場所からの落下にも耐える耐久性を備えており、そして騒音環境でも対応できるようノイズキャンセリングが設計されており、常に安定したパフォーマンスを発揮します。
Lilz Gaugeは、IoTカメラでアナログメーターを自動で読み取り、AIによってデジタル数値データとして可視化できるサービスです。作業現場における温度、湿度、圧力、水位、ランプ点滅など、計器の種類問わず多様なデータの読み取りが可能です。主に製造現場の機械や設備の巡回点検業務の効率化を図る目的として使用されています。
まとめ
防爆エリアにおけるDX推進、IT機器の導入は実現可能になってきています。非防爆エリアと比べると、使用可能な製品は少ないですが、需要と共に徐々に開発されていくと考えられます。企業成長や他社との差別化から、防爆エリアにIT製品の導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
NSWが提供する防爆製品『RealWear』『LiLz Gauge』に関しましては、通常タイプも提供しており、設備保守・保全業務の効率化にご活用いただいています。また無償PoCやデモのご案内も可能ですので、ぜひお問い合わせください。