課題
- 製品サポートの作業負荷が高く、慢性的な人材不足
- サポート対応遅延による機会損失
- 競合するグローバル企業との競争力の低下
解決策
- スタートアッププランで短期間に概念検証(PoC)を実施
- 汎用性のある分析装置用IoTプラットフォームを開発
効果
- 電話対応時間が約90%短縮
- サービス派遣指示までの時間が約90%短縮
- 分析装置の価値を高め、新たなビジネス展開
日本電子株式会社
■会社紹介文
創立75周年を迎えた当社は”創造と開発”の理念のもと、科学の進歩と社会の発展に貢献してきました。
共創によるイノベーション推進を意味する「YOKOGUSHI」という当社独自の行動様式を掲げ、世界の科学技術を支えるニッチトップ企業を目指して挑戦を続けています。
なぜ、IoTが必要なのか
医用機器メーカーの在り方
生化学自動分析装置のトップメーカーである日本電子がIoTへ期待することはどのようなことなのか。医用機器事業部長 藤野様に伺いました。
「昔の臨床検査業界は、生化学検査の専任者がいましたが、最近では病院の従業員全員がローテーションで機器を使用するようになりました。すると、機器の専門家ではないため、機器の状態が正常であるかどうかの判断ができないことがあります。私たちのビジネスはBtoBですが、その先には患者様がいらっしゃいます。分析装置の精度を高めることはもちろんですが、最終的には患者様たちに対して正しいデータを提供する必要があります。」(藤野様)
- IoTの必要性
「『このデータは正しいですよ』、『これは機器の故障ではない何か別の理由で異常がでていますよ』などの、データを表示させるだけではなく、そのデータが正確であるという事も示し、だれが見ても機器の状態が正常であるということを、データを見て判断できる事が理想です。また、臨床データを収集・分析することで、新たな診断方法や治療法の開発にも貢献できると考えています。さらには、データサイエンスの力を借りて、データの相関や傾向を見つけることで、価値ある情報の提供ができるようにもなりたいと思っています。」(藤野様)
プロジェクト立ち上げのきっかけ
プロジェクト立ち上げのきっかけは、同社に勤める同期のお二人が直面していた課題を相談しあった事から始まりました。日本電子は電子顕微鏡をはじめとする理科学計測器や医用機器などを製造・販売する理科学機器メーカーです。特に医用機器にあたっては製品の特性上、故障や不具合への対応は急務であり24 時間365 日のサポートが必要になります。
「営業経験が長く、夜間や休日問わず修理対応に追われるサービス業務を間近で見ていてどうにかしたいと漠然な思いを抱えていました。また、国内外の同業他社は、遠隔サポートとネットワークを活用した新サービスを展開しているため、日本電子でもIoTを取り入れていかないと遅れをとってしまうという危機感がありました。」 ( 阿部様)
「電話やFAXでは、正確な状態把握が難しく、故障箇所の診断に時間を要していました。故障診断を誤るとサービス員が持参する保守部品の選定も誤ってしまい、お客様先から一旦会社に部品を取りに戻る二度手間が生じていました。海外のサポートでは、代理店より分析装置にトラブルが発生しているという情報だけで、具体的な情報が得られず対応に時間を要していました。」(谷水様)
知識ゼロからのIoTシステムの開発
出力する『分析装置側』と、情報を表示する『システム側』を同時に開発
「JEOINT™システムの開発は、日本電子とNSWの2社が、それぞれの企業特性を活かしてプロジェクトを進めました。私たちは分析装置の開発には長けていますが、クラウドシステムの開発経験が不足していました。そこで、どのようなものを作りたいかという企画検討の段階から、NSWと密に打ち合わせを行い、両社の強みを組み合わせることで、JEOINT™システムが完成しました。」(富井様)
JEOINT™システムの開発で意識したポイントは次の3点です。
●UIデザイン
― 直観的に操作できる画面構成
「Webブラウザから分析装置の状態を把握できる画面といっても、これまでにないシステムであることから、画面イメージが沸きませんでした。画面に関する要件定義には想像以上の時間がかかりましたが、サービス員とのヒアリングを重ねることで、コールセンター業務に必要な情報が搭載されたUIを構築できました。」(富井様)
●IoTデバイス
― 簡単に接続できるデバイス
「概念検証を進めていく中で経験したIoTデバイスに対する課題、『IoTデバイスのIP設定が分からない』、『LTE通信の電波強度が把握できない』、『IoTデバイスとクラウドサーバーの通信確立ができているのか分からない』への対策が必要でした。これら課題への対策として『不慣れなサービス員でも分析装置とJEOINT™システムを簡単に接続できる』、『接続する分析装置に依存しない汎用性の高いIoTデバイス』と『分析装置をセキュリティリスクから保護するIoTデバイス』を開発コンセプトとして、NSWへ開発を依頼しIoTデバイスが誕生しました。」(富井様、谷水様)
― 安心して接続できるプラットフォーム
「お客様の大切な分析装置を安心してJEOINT™システムに接続いただくためにも、セキュリティ基準となるガイドラインを探索する必要がありました。複数のガイドラインを参照しましたが、その当時はIoTに対する適切なガイドラインは存在していませんでした。そこで、厚生労働省・経済産業省・総務省から発行されている病院内の電子カルテを遠隔保守するためのガイドラインを参考に、セキュリティ面の検討を始めました。インフラ面では、早くからガイドラインに準拠した運営を行っているマイクロソフト社が提供するAzure を採用しました。ネットワークインフラについては、日本電子 IT本部の協力のもと、インターネットを介さないIP-VPN を選択することで、セキュアなネットワーク環境の構築が実現しました。昨今、医療機関へのサイバー攻撃のニュースが多くなっていますが、JEOINT™システムは開発当初からサイバーリスクを考慮した設計を意識していたことから、最新のサイバー攻撃に対しても、十分なセキュリティ対策が取れています。 」(富井様・谷水様)
JEOINT™システム導入による効果
効果1:高品質かつ迅速なお客様サポートを実現
「Webブラウザ上で分析装置の状態把握ができるようになり、不具合が発生した箇所を素早く追跡できるようになりました。その結果、電話対応時間が約90%短縮したとともに、サービス派遣指示までの時間が約90%短縮し、より短時間で質の高いお客様サポートを提供できるようになりました。また、自然災害時は、『お客様へ電話がつながらない』、『安全上サービス員を派遣できない』など、状況確認が難しいことがありました。遠隔地との通信が確保されたことにより、正確な状況把握が行え、サポート作業が迅速に判断できるようになりました。」(神山様)
効果2:顧客ニーズをダイレクトに把握
「お客様が、普段どのように分析装置を使用しているかダイレクトに把握することで、開発やサービスの企画、最適な試薬や消耗品の包装形態の検討、効率的な運用の提案ができるようになりました。」(阿部様・谷水様)
効果3:安全かつ迅速にデータを収集
「日本電子では複数の機関と共同研究を行っています。これまでは、解析担当者が周期的に共同研究先へ赴き、データの収集を行っていました。JEOINT™システムが導入できたことで、社内からデータを安全かつリアルタイムに参照することが可能となりました。また、分析装置から出力された情報は、データベースに保存されるため、様々な角度からデータの解析を行えるようになりました。」 (阿部様・谷水様)
オープンなプラットフォームで業界全体の価値を向上する
― オープンなIoTシステム
「JEOINT™システムは自社の装置だけでなく、他社の装置にも提供できると考えます。その背景には、IoTの導入は必要であると認識している反面、その実現方法が分からないという分析機器業界内からの声があります。IoTシステムの導入において、苦労した経験や、得られた効果から、JEOINT™システムは他社にもニーズがあると確信しました。4G LTEによる閉域ネットワーク接続可能な汎用性の高いゲートウェイの開発や、装置のアウトプットに応じたテンプレート作成など、自部門の医用機器だけでなく他部門の理化学計測機器群や他社装置でも使用できる拡張性をシステム要件に追加しました。」(阿部様)
― 業界全体の価値向上
「IoTやデジタル化は海外メーカーが先行している印象です。国内の分析機器メーカーに対して、IoTの活用を広めることで、業界全体の価値を高めるとともに、新たなビジネスチャンスの創出を目指しています。」(阿部様)
理科学計測機器群への拡張
飯沼様の事業部では、電子顕微鏡や質量分析計、核磁気共鳴装置など多様な理科学計測機器の設置や修理・保守サービスを提供しており、そのサービス範囲は日本国内のみならず、全世界に広がっています。
「弊社の理科学計測機器は、全国で約1万台稼働しています。昨今、少子化と人口減少が確実に見える中、今後人材確保がますます難しくなり、従来の方法だけではサービス品質を保つことが困難になるのは明らかです。その中でサービスに新しい価値を加えられる技術として、IoTや遠隔作業技術に着目しました。そこで、ME事業部のJEOINT™システムのプラットフォーム部分を活用して、理科学計測機器群への拡張を試験的に行っていきました。試験運用では故障個所の特定や、適切な修理部品の選定が可能になり、保守サポート業務にかかる時間の短縮に貢献できています。また、遠隔からのメンテナンスも可能になり、お客様の装置が利用できないというデッドタイムを最小限に抑えられました。お客様、サービス員の両方にメリットがあると実感しています。」(飯沼様)
長期的なビジネスの成功を
「IoTの活用を自社のビジネスとして取り組んでいく上で様々な課題はあるものの、保守サービスにおいてIoTなどの新技術を用いたサービス向上は、社会ニーズの観点から見ても取り組まないという選択肢はあり得ないと考えます。弊社は、世界に25拠点を持ち、ビジネスの6割が輸出となっています。理科学計測機器の保守サービスを提供している各国や地域によっては距離があることから、現地に出向くまで時間が掛かります。IoTやスマートサービスを活用することで、グローバルに装置を見守り、よりタイムリーにサポートできるようにすることが、弊社の目標です。これにより、お客様にとっては、より安心して装置を使っていただけるようになりますし、弊社にとっては、新たなビジネスチャンスにつながると考えています。」(飯沼様)
「IoTの活用を広めることで、業界全体の価値を高めるとともに、新たなビジネスチャンスの創出を目指しています」
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●なぜ、IoTが必要なのか
●プロジェクト立ち上げのきっかけ
●知識ゼロからのIoTシステム開発
●JEOINT™システム導入による効果
●オープンなプラットフォームで業界全体の価値を向上する
●理科学計測機器群への拡張
JEOINTは日本電子株式会社の登録商標です。