設備保全の現場支援をどう高度化するか
スマートグラスとAIで探る活用の可能性
スマートメンテナンススマートグラス
三井不動産株式会社

三井不動産株式会社様(以下、三井不動産)では、施設・ビル管理業務における安心・安全の提供と、将来を見据えた業務品質の維持・向上に向けて、現場支援の高度化を検討されていました。そこで今回、産業用スマートグラス「RealWear」と、マニュアルを参照できる生成AIを組み合わせた「対話型作業支援ソリューション」のPoCを実施。異常時対応における経験の浅い現場スタッフへの支援や、遠隔からの的確なサポートの可能性を検証した結果、作業時間短縮や支援体制最適化に向けた有効性と、今後の実装に向けた具体的な課題が明らかになりました。

課題

  • 人材不足に加え、異常時対応では、経験の浅い現場スタッフが状況判断や確認に時間を要する場面があった
  • 電話中心の支援では、現場状況の共有や指示の精度に限界があった

解決策

  • 作業マニュアルを学習させた生成AIを活用し、音声対話で情報参照できる「現場エージェント」を構築
  • RealWear Navigator 500による遠隔支援と、AI活用を組み合わせ、現場での実用性・有効性・課題をPoCで評価

効果

  • 経験の浅い現場スタッフによる異常対応時間において、約53%の作業時間短縮の可能性を確認
  • 支援側オペレーター全体の支援時間において、平均で約27%の対応時間迅速化を確認
三井不動産株式会社

■会社紹介文

三井不動産は、日本を代表する総合デベロッパーとして、オフィス・商業施設・住宅・ホテル・物流施設など幅広い領域で都市開発と運営を手がけています。「すまう・はたらく・たのしむ」を軸に、多様なライフスタイルに応える街づくりを推進しています。中期・長期経営計画では、“産業デベロッパー”としての進化を掲げ、コア事業の強化に加え、スポーツ・エンタメ領域や新事業創出、環境配慮型開発への投資を加速。2030年に向けて持続可能で多様性ある都市の実現を目指しています。

背景:将来を見据え、現場支援の高度化に着手

三井不動産では、施設・ビル管理業務において、テナント様や施設利用者様へ安心・安全を提供し続けるため、現場品質の維持と業務高度化を重要なテーマとして捉えていました。特に、将来的な労働力不足が見込まれる中でも、サービスレベルを維持しながら、現場スタッフの力を最大限に引き出せる仕組みづくりが求められていました。

同社では2019年頃からスマートグラス端末の検証を進めてきましたが、当時はまだ性能面や通信面に課題があり、評価は定性的なものが中心でした。近年、端末やAIの実用性が高まってきたことを受け、今回のPoCでは、NECとアビームコンサルティングが定量的な効果測定の設計・評価を担い、NSWがスマートグラスやAIの技術面を支援しながら、客観的かつ厳密な計測手法の構築と検証を進めました。

そのうえで今回のPoCでは、遠隔支援をより実践的に機能させるスマートグラスと、マニュアル参照を支援する生成AIを組み合わせることで、業務品質の平準化と現場対応力の向上を目指しました。

検証概要:RealWearと生成AIを組み合わせ、現場での実用性を検証

今回のPoCでは、産業用スマートグラス「RealWear Navigator 500」を活用した遠隔支援機能と、作業マニュアルを参照できる生成AI「現場エージェント」を組み合わせ、設備保全の現場でどこまで実用的に使えるかを検証しました。

単に新しい端末やAIを試すのではなく、実際の業務の中で、どのような場面で有効に機能するのか、また、どのような条件がそろえば現場導入につながるのかを見極めることを重視したPoCです。

検証の舞台となったのは、日本橋一丁目三井ビルディングの機械室やバックヤードです。現場では、設備の管理スタッフやファシリティーズの運営企画部も関わりながら、できるだけ実運用に近い形で試行を重ねました。

異常時対応と日常点検を想定し、現場に即したシナリオを設定

検証では、設備保全の現場で発生しうる代表的な業務として、複雑すぎない点検業務も含めた「異常時対応」と「日常点検」の2つを設定しました。

異常時対応では、漏電事象を設備が検知したケースを想定し、現場スタッフが状況を確認しながら、どのように支援を受けて対応を進められるかを確認しました。一方、日常点検では、日本橋一丁目三井ビルディングにおける井水のくみ上げポンプの点検を題材とし、作業中の情報確認や支援の受けやすさを検証しました。

複数の支援パターンを比較し、現場での活用性を検証

現場支援のあり方を比較するため、PoCでは「従来通りで対応した場合」「RealWearを装着し、映像を共有しながら支援を受ける場合」「AIと対話しながら、防災センターから映像支援も受ける場合」の複数パターンを用意しました。

あわせて、電話対応とRealWearを活用した遠隔支援の違いも確認し、支援手段の違いが異常時対応や日常点検にどのような影響を与えるかを比較しました。

さらに、経験の浅い現場スタッフと中堅層の双方を対象に、習熟度によって必要な支援の内容や活用のしやすさにどのような違いがあるかも検証しました。

効果:異常時対応の迅速化と、支援品質向上の可能性を確認

今回のPoCを通じて、遠隔支援による異常時対応の迅速化と、生成AI活用の有効な適用領域の把握が進み、設備保全業務における支援品質向上の可能性が確認されました。

遠隔支援機能で確認された効果

特に効果が明確だったのが、異常時対応における遠隔支援です。

経験の浅い現場スタッフが対応するシナリオでは、従来の電話支援に比べて、RealWearを活用した遠隔支援のほうが現場状況を共有しやすく、支援側オペレーターも状況を把握したうえで的確な指示を出しやすいことが確認されました。

電話では伝えにくい設備の状態や現場の状況も映像で共有できるため、異常発生時の初動をよりスムーズに進めやすくなります。その結果、経験の浅い現場スタッフの作業時間が21分30秒から10分00秒まで短縮でき、約53%の作業時間短縮が見込まれました。

また、支援側オペレーターの支援時間も29分14秒から21分17秒まで短縮でき、約27%の対応時間迅速化が見込まれています。

現場映像をリアルタイムに共有できることで、経験の浅い現場スタッフが初動対応を行う場面でも状況把握がしやすくなり、支援の質と対応のスピードの両面で有効性が確認されました。現場スタッフの対応を支えるだけでなく、支援側オペレーターの負荷軽減にもつながる結果となっており、異常時対応における遠隔支援の実用性が示されたといえます。

現場エージェント機能で確認された効果

生成AIを活用した現場エージェントについても、認識精度・応答速度・回答内容の面で一定の評価が得られました。

必要な情報へ音声でアクセスできる仕組みは、作業中の情報確認を支援する手段として可能性を示しており、設備保全の現場における新たな支援のあり方として有効性が確認されました。

特に、作業マニュアルや関連情報をその場で参照できることは、現場での確認や判断を支えるうえで有用でした。加えて「AIのファイル検索機能」は、現場だけでなく支援側オペレーターがPCで利用する場合にも有効であることが確認されています。

一方で、活用効果には利用者の習熟度による違いも見られました。経験の浅い現場スタッフにとっては、AIに何を質問すべきかを言語化しにくく、得られた回答が適切かどうかを判断しにくい場面もありました。

これに対し、一定の業務知識を持つ中堅層や支援側オペレーターは、必要な情報をより素早く引き出しやすく、中堅層のほうが効果を感じたことも示されています。今回のPoCで得られた大きな収穫の一つは、AI活用の「適材適所」が明確になったことでした。

AIは一律にすべての利用者を支援するのではなく、現場知見を持つ人材の判断や対応を補強する用途で、より実用的な価値を発揮しやすいことが明らかになりました。言い換えれば、「AIは経験者を強くする」という方向性が見えてきたといえます。どの利用者層に、どのような形で適用するのが有効かを見極められたことも、今回の成果の一つです。

PoCを通じて整理できた端末評価の観点

今回のPoCでは、遠隔支援やAI活用の有効性を確認するだけでなく、施設で実際に運用していくうえで求められる端末の評価観点も整理できました。

具体的には、長時間の業務に耐えられる電源の持続性、安定して利用できる通信性、バッテリー交換のしやすさ、装着時の重量感、長時間使用でも負担になりにくい装着性といった観点です。

こうしたポイントが明確になったことで、今後は施設ごとの業務内容や運用条件に応じて、より適した端末を選定していくための基盤づくりにもつながっています。

課題:実運用を見据えて見えてきた課題

PoCを通じて、遠隔支援や現場エージェントの有効性が確認された一方で、本格導入に向けた課題も見えてきました。今回の検証では、効果そのものだけでなく、評価の進め方や、現場で無理なく使ってもらうための調整の重要性も明らかになっています。

定量計測の難しさ

ビルディング本部 運営企画一部 企画グループ
エンジニアリングリーダー 上井 公介 様

課題の一つとして挙がったのが、定量計測の難しさです。

今回のPoCでは、現場での手応えや使い勝手といった定性的な評価を得られた一方で、定量的な内容を取得するためには、同じ検証を繰り返し実施する必要がありました。定量的なデータを取るために十数回にわたる実施が負担になったことも挙げられており、客観的な比較に耐えるデータを集める難しさが課題として浮かび上がりました。

また、端末面では、バッテリー持続時間、ホットスワップ対応、LTE利用、重量、装着性といった観点も評価が必要であることが明らかになりました。今回のPoCは、遠隔支援やAI活用の効果を確認するだけでなく、現場ごとにどの端末・どの運用が適しているかを見極めるための評価観点を整理する機会にもなりました。

音声UIと専門用語対応の難しさ

ビルディング本部 運営企画一部 企画グループ
木口 寛士 様

もう一つの課題として見えてきたのが、AIを現場で自然に使える形にするための音声UI対応です。

現場では当初「現場AI」という呼び方を想定していたものの、音声ではうまく認識されにくい場面があり、より呼び出しやすい名称として「現場エージェント」へ見直しが行われました。

こうした見直しにあたっては、三井不動産の現場感覚を踏まえながら、NSWがPoCに向けてアプリを迅速に修正しました。現場でスムーズに使ってもらうためには、機能そのものだけでなく、呼びかけやすさや認識されやすさも重要であることが分かりました。

また、設備保全の現場では専門用語も多く、AIに伝えても意図通りに認識されないケースがありました。

現場で使われる言葉や呼びかけ方にどこまで対応できるかは、使い勝手に直結する重要なポイントです。実運用に向けては、名称や呼びかけ方の工夫に加え、専門用語への対応を含めた継続的な調整が必要であることが分かりました。

将来の展望:エリア監視を通じた持続可能な施設運営へ

今回のPoCを通じて、RealWearを活用した遠隔支援は、異常時対応における初動の迅速化や、支援品質の向上に有効であることが確認されました。

今後は、1つの管理センターから複数の現場を効率的に見守る「エリア監視」の実現に向けて、遠隔支援の活用をさらに広げていくことが期待されています。限られた体制の中でも施設品質を維持しながら、安定した運営を支える仕組みとして、その重要性は今後さらに高まっていくと考えられます。

AI活用と施設運営価値の向上に向けて

AI活用についても、経験の浅い現場スタッフを単独で支援するというより、中堅層や支援側オペレーターの判断や対応を補強する方向で、実務に使いやすい形へ磨き込んでいく方針です。特に、複数の施設を横断的に管理するエリア監視では、施設ごとに異なるマニュアルや関連情報の中から、必要な情報を素早く参照できる環境づくりが重要になります。

AIを活用することで情報検索の負荷を軽減し、経験者がより高度な判断に集中しやすい運用につなげていくことが期待されます。通話記録をもとにした当直日誌の下書き作成など、周辺業務への展開も含め、検索支援にとどまらない活用の広がりが見込まれます。

こうした取り組みは、社内の業務効率化にとどまらず、三井不動産がビルオーナー様や入居テナント様に提供する価値を高めるうえでも大きな意味を持ちます。異常時対応の迅速化は、建物のダウンタイムを最小限に抑え、ビルオーナー様の資産価値を守るとともに、入居テナント様への「安心・安全」の提供価値を高めることにもつながります。
施設運営の品質を競争力へとつなげていくために、現場支援の高度化は今後ますます重要になっていくと考えられます。

NSWは今後も、三井不動産の現場に即した技術検証と改善を重ねながら、設備保全・施設管理業務の高度化に向けた取り組みを支援していきます。

本事例で活用したソリューションのご紹介
RealWear
RealWearは、現場スタッフの視点映像をリアルタイムで共有しながら遠隔支援を行えるほか、堅牢性や通信性を備え、設備保全をはじめとした現場業務での活用が期待されるソリューションです。

NSWは、端末の提供に加え、スマートグラス向け生成AIアプリケーションの開発、AI学習対応、検証環境構築、現場での検証支援を担当しました。お客様の業務に合わせて、導入支援からアプリケーション開発、既存システムとの連携まで一貫して支援します。

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