製品はいま、単なる「モノ」ではなく、自らの履歴や状態を語る“ストーリーテラー”へと進化しています。CADによるデジタル設計の始まりから、PDM・PLMによる全社的な情報管理、そして現実と仮想を結ぶデジタルツインへ――製品の一生をデータで捉える考え方は、企業の競争力そのものを変えつつあります。本稿では、その変遷をたどりながら、これからのものづくりに求められる視点を探ります。
製品は「物語」を持つ時代へ
いま、製品は単なるモノではなく、自分の「物語」を語る存在になりつつあります。
ジェットエンジンを例に挙げれば、飛行中の性能データ、整備履歴、製造プロセスなど、あらゆる情報がエンジンの一生を記録した“デジタル・バイオグラフィー(デジタル自分史)”として蓄積されていきます。
この「魂の記録」ともいえる概念を支える基盤のひとつが PLM(製品ライフサイクル管理)です。本稿では、PLMがどのような歴史をたどり、現在注目されるデジタルツインにどうつながってきたのかを整理します。
CADとPDMが切り開いたデジタル設計の時代
物語は1980年代の CAD(Computer Aided Design)から始まります。
紙の図面が3Dモデルへ置き換わることで、寸法や形状情報がデジタルで扱えるようになり、設計プロセスは一気に進化します。
しかし同時に、「図面ファイルの所在が分からない」「最新バージョンが不明」などの新しい問題も発生しました。そこで登場したのが PDM(Product Data Management)。
PDM は設計部門の“電子書庫”として、図面や部品構成を整理し、正しい情報を届ける仕組みを担います。
PLM誕生へ—企業全体の“製品図書館”の拡大
1990〜2000年代、製品は高度化し、設計情報と他部門の業務が強く結びつくようになりました。
PDM の枠を超え、調達・生産・品質・サービスなどあらゆる部門のデータを連携が求められるようになり、PLM の概念が確立されます。
PLM は製品アイデアから退役までの膨大な情報を扱う、企業全体の“巨大な製品図書館”へと成長していきました。
クラウドがもたらしたPLMの新しい価値
2010年代、クラウド技術が広まると PLM は大きく変わりました。
高価なサーバーを所有しなくてもよくなり、世界中から同じ PLM システムへアクセスできるようになったことで、設計変更や情報共有がリアルタイムで行える環境が整います。
この変化によって、PLM は単なるデータ管理ツールから、グローバルに連携し企業戦略を支える“プラットフォーム”へと進化しました。
デジタルツインが実現する「生きている製品」
いま PLM の延長線上で注目されているのが「デジタルツイン」です。
センサー情報、稼働データ、整備履歴、設計シミュレーションなどがリアルタイムに統合されることで、仮想空間に“生きているモデル”が形成されます。
このモデルは、機械の異常予兆の検知や、過去データを使った新モデル開発の改善など、製品の価値向上を継続的に支えます。
製品と人間の間で、対話のような関係が生まれていると言えるでしょう。
これからの企業に求められる視点
PLMやデジタルツインの価値を最大化するには、「どんな情報を集めるか」以上に、「その情報を使ってどんな新しい価値を提供するか」を描くことが重要になってきます。
製品が自らの状態を語りかけてくれる時代に、企業はその声にどう向き合い、未来の製品価値をどのようにつくっていくのか。
その視点こそが、これからのモノづくりに問われるテーマとなります。
次回は「第3回: PLM導入のメリットと課題―企業価値を高める鍵とは?」をご紹介します。
PLM導入によって得られる業務効率化、品質向上、コスト削減などのメリットと、
導入時に直面する組織的・技術的な課題について具体的に解説します。
